【進捗報告】開発がさらに一歩前進しました! ―特許取得と産学機能連携による実験に成功-

この度、いたドロプロジェクトは実証実験を行い、鳥獣被害抑止のための一連の飛行動作に成功しました。

 

〈動画でみる〉実証実験レポート&研究・開発者のインタビュー動画

 


■実証実験の内容

日時:1回目 2024130日(火)/ 2回目 同年2月29日(木)

 

今回の実験は、「検知・測定・牽制」のうちの「牽制」パートを中心に行いました。

具体的なステップは以下のとおりです。

 

・事前に倉庫内を3Dマップ化し、人を仮想鳥獣と見立て、AIが検出して自動でドローンが飛行。ドローンがダミー障害物(画像1参照)の脇をすり抜けるような最適飛行経路を生成(画像2参照)。

・目的地に到達したドローンは仮想鳥獣に対して、威嚇行動を実施。

・行きのコマンドを元に、スタート位置へ帰還する飛行コマンドを自動で作成して、実際に帰還飛行を行う。

 

(画像1)ドローンの飛行を邪魔する高い壁を3Dマップ上に作成

(画像2)2月29日に行われたテストフライトのイメージ

■実証実験の結果

概要:

・三者それぞれで構築したシステムの結合および実行に成功。

・AIの検知座標を元に最適な飛行経路を決定し、ドローンを飛行させ、行きの飛行経路を元に帰還用の飛行経路を自動的に作成し、実行するという一連の流れを実証することができた。

・今回の実験結果は「屋内において、AI物体検知をトリガーとし、事前に撮影した3次元点群データを元に計算された、最適経路を用いてドローンを飛行させる」というプロジェクトが実現可能であると確認された。

・ドローン到達点の精度や到達スピードなどを高めることは、今後の課題。

 

結果詳細:

・当該テスト以前に改修した飛行プログラムの試行錯誤を繰り返し、改善のうえ2日目テストにおける3回目の飛行で一連の動作を実行することができた。

・一方で、平坦ではない面の上空を飛行させるルートでは、トイドローンの性能上、制御しきれない問題があり、飛行誤差が大きくなってしまう可能性があることが分かった。

・当実験の第一目的である、各機能統合後の一連の動作環境の確認のため、飛行4回目、5回目では平坦な通路上を飛行するルートに変更して実験を行っている。

・注目すべき点として飛行経路決定時間の短さがあげられる(下表赤枠部)。これはAI検知→飛行経路決定までに必要とした時間であり、0.4秒台であることからリアルタイムに処理が行われていることが分かる。

 

■その他成果

・2024年2月29日付けで「特許第7445909号 害獣駆除システムおよび害獣駆除プログラム」として特許を取得しました。

■ヤマサ・信州大学・松本工業高校の役割と開発秘話

ヤマサ

Point1 AIのネズミ検知精度

 AIにネズミを学習させるためには、多くのネズミ画像(教師データ)が必要です。開発初期のAIの画像検知は、実は場所や環境が変わると、検知精度が落ちてしまいます。これは一緒に写り込む背景などの変化にAIがまだついてこれない現象で、どんな場所でも通用する汎用性の高いAIを作るためには、様々な場所で撮影したネズミの画像が必要なのです。ヤマサは多数の事業者様にプロジェクトの理解と協力を呼び掛け、ネズミの教師データを集める地道な取り組みを続けています。

 

Point2 AIカメラ画角の歪み補正とカメラ位置の特定

右の写真は今回のテストのために設置した赤外線カメラの画角の一部です。広角レンズで広い範囲を捉えているため、画角の外側が歪んでいることがお分かりいただけるでしょうか?(左側にある柱に注目)
せっかくカメラでネズミの位置を捉えても、この歪みがあるせいで3Dマップ上に正確な位置を示すことができなくなってしまうのです。

 

 

 そこでヤマサはカメラキャリブレーションという手法を用いて、予め画像の歪みを数値化し、信州大学と共有しました。また、XYZの3方向の軸を示す模型を手作りし、それを現場で撮影した画像も信州大学と共有することで、カメラの設置位置も3Dマップ上でより正確に再現することができ、2D(カメラ画角)と3Dマップとの連携を可能としました。

Point3  DXノウハウを応用した各機能統合とシステム開発

今回のプロジェクトでは3者それぞれで機能を開発するため、最終的にはそれらを一つのシステムとして統合する必要があります。ヤマサではDX施策の一環として複数の業務システム間のデータ連携処理や業務アプリの開発を行っており、このノウハウを応用してAIカメラ×最適飛行経路決定プログラム×ドローンの連携処理を構築し、実証実験用システムを完成させました。

松本工業高校

Point1 ドローンの飛行制御をプログラミングできる機種はまだまだ少数

 検知した位置情報を基に、指示されたルート通りにドローンを飛ばす。言うのは簡単ですが、現時点の既製品ドローンでは、これができる機種はごく限られています。また、屋内で安全に飛行できるサイズであることも重要なポイントです。今回使用したドローンはその限られた選択肢の中でも最上位機種であるTelloを使用しました。トイドローンではありますが、高校生たちが持てる限りの知識と技術を使って、自在に言うことを聞いてくれる飛行プログラムを完成してくれました。大きな飛行音と発生する下降気流で、ネズミを脅かすには十分な役割を果たしてくれます。

Point2 充電基地自動化への創意工夫

 ドローンは一回のフライトでかなりの電力を消耗します。そのため連続してネズミが現れた時、1機のドローンでは対応しきれません。そのため複数のドローンが待機でき、バッテリーの多いドローンから順次飛び立つオートマチックなドローン基地が必要になります。今回、2期生となる高校生がこの制作に果敢に挑戦してくれました。完成にはまだ時間がかかりますが、3期生の活躍を期待しながら見守っているところです。

信州大学工学部

Point1 2D→3D変換方程式の提案と実装

AI検知されたネズミの位置情報は検出に使用した画像中の2次元座標(x,y)で出力されます。しかし実際には実空間の3次元座標(x,y,z)を用いてドローンの目的地を指定する必要があるため、何らかの形で座標を変換する必要があります。今回はAIカメラの位置関係を手掛かりに2D→3D変換を行う方程式を新たに提案、プログラミングすることで3次元の検知座標を算出し、この問題を解決しました。

 

 

 

Point2 点群データの歪み補正

3Dマップは今回LiDAR※カメラを搭載したiPadで現場を撮影し、三次元点群データになった画像をつなぎ合わせて一つの大きなデータに仕上げています。今回、対象エリアをぐるっと一周していますが、このデータがきれいにつなぎ合わさるには、撮影のコツや、データ修正の技術が必要になります。それらノウハウも含め、ヤマサはこれから技術承継する予定です。

 

※近赤外光や可視光、紫外線を使って対象物に光を照射し、その反射光を光センサーでとらえ距離を測定するリモートセンシング(離れた位置からセンサーを使って感知する)方式

完成した当初の3Dマップ

Point3 飛行ルートはすべてのパターンがあらかじめ作られる

 多くの方はAIがその時々で飛行ルートを計算してドローンが発進するとお考えかもしれません。でも違います。3Dマップ上の飛行可能エリアは1m四方間隔で格子状の座標が数値化されており、ドローン発着基地からすべてのネズミ出現エリアまでの最適飛行ルートがあらかじめ作られています。つまり本番ではそれらのルートの中から最適なものを一つ選ぶだけとなります。これにより、AIの力を借りることなく、プログラム上の処理のみでネズミ発見から目的地到着までのリードタイムを大幅に短縮することができるようになりました。

 

 

 なお、この最適飛行ルートの生成には最適化手法のひとつである遺伝的アルゴリズムを利用しています。ネズミを追い払った後、帰還するルートは、同じ手法を用いてドローンのバッテリー消耗を抑えたルートを選択することも可能になります。

最適飛行ルート導出プログラムのテスト画像

■株式会社ヤマサ 代表取締役コメント

農家さんのお悩みごとから、このような研究開発が、産学官連携で実現したことを非常に喜ばしく思っております。

 

今回は「検知・測定・牽制」の「牽制」パートの実験で、屋内での小型ドローンの自動飛行を検証いたしました。

 

まだまだ課題は残っておりますが、引き続きこの研究で得た様々な技術を活用し、新しい用途も含め、広い視野で活用を推進してまいります。

■今後の展望について

株式会社ヤマサは、この実証実験結果を基にさらに高い汎用性を持ったソリューションの形を模索していきます。また、実証結果の実用化においても、鳥獣被害の悩みを抱えた事業者や業界関係者の方々など、新しい協力先も探しながら、具体的な計画を進めていく予定です。

 

2024年1月30日 1回目統合テスト参加メンバー

手前左から 三澤実(松本工業高校教諭)、加藤雅陽(同高校3年生)、北爪寛孝(ヤマサ代表取締役)、中村正行(信州大学工学部教授)、奥左から重田武志(ヤマサ総務部企画管理課)、岸部友裕(ヤマサ業務委託)、松岡浩仁(信州大学学術研究院准教授)、西脇琉晟(松本工業高校OB)、下田嵩琉(同高校3年生)、福澤秀樹(ヤマサ総務部デジタル推進課)、西村太一(同左)